胃之頭公園

「栞と紙魚子」シリーズ最初のエピソード「生首事件」は「胃之頭公園」から始まる。この公園のモデルとなったのはもちろん「井の頭公園」である。

この公園を象徴する「井の頭池」周囲に当てはまりそうな風景は多いが、木やベンチの配置が大きく変わっていなければ、池の北側のここが扉絵背景のモデルとなった場所だろう。

この場所の左側は遊具が複数設置された子供の遊び場になっている。そう、「黄昏の胃之頭公園」でクトルーちゃんが遊ぶのがここだ。

作中では手前からすべり台、ブランコ、ジャングルジムが並んでいるが、写真ではブランコの奥に背の低いローラー滑り台がある。公園の遊具は定期的に入れ替わるので、本作が描かれた1997年から何度かの入れ替えを経て現在のラインナップに変わったのだろう。写真では分からないがローラー滑り台の奥には砂場があり「いやに顔がデフォルメされたお母さんたち」が子供を遊ばせている砂場と繋がる。

この遊具広場の先には丸い屋根が特徴的な屋外ステージと、

「胃之頭池」を縦断する「七胃橋」がある。

池の北側エリアは吉祥寺駅に近く「井の頭公園」の中で最も人通りが多い。それを反映してか「栞と紙魚子」作中にも複数回登場する。「弁財天怒る!」で童子が「胃之頭公園」に入って行く階段は先ほどの屋外ステージのすぐ脇にあり、

竜巻が起きるシーンも「胃之頭池」を北側から見た風景だろう。

新装版に書き下ろされた「その後の生首事件」では「胃之頭池」の向こうにボート管理棟が描かれている。この建物は2023年に改修されたが、形はそれほど変わっていない。

このエピソードでは栞の生首が「股川上水」を遡上して「胃之頭池」に到達する。上水と池の境界には「ひょうたん橋」の様な橋も描かれている。(井の頭では「井の頭池」が「神田川」の水源だが、胃の頭では「胃之頭池」の水は「股川上水」へ流れ、「肝田側」は「鬱状寺駅」の北の方から流れてくる)

「ひょうたん橋」は池の小島を挟んで二つの橋からなっており、一方は水門の遺構なのか柱の様なものが井の頭池側に設置され、一方は太鼓橋状になっている。作中に書かれた橋はこれらの両方の特徴を持っている。

そして「井の頭公園」といえば、諸星読者にとって忘れられないのは「暗黒神話」に登場する藤棚である。菊池彦が武の母を待つ、雨の井の頭池に藤棚が映る印象的なシーン。

「暗黒神話」が描かれたのは1976年で、今から50年も前である。しかし藤は寿命が長い植物であり、現在井の頭公園にある藤棚の藤と、当時モデルにされたであろう藤棚の藤は同じものである可能性が高い。人工物である藤棚の方が寿命が短く、おそらく何度か建て替えられているだろう。菊池彦を討った武が姿を消すシーンでは、池を前にした藤棚と藤の幹の位置、それに水道の位置などが、現在とほぼ同じ配置に描かれている。

主人公の武の家は三鷹駅から井の頭公園の間であると読める。「暗黒神話」が描かれた時点では諸星先生は井の頭周辺には住んでいなかったという事だが、それから数十年経って井の頭エリアに居を移し、近隣の風景をモデルに「栞と紙魚子」シリーズを描くことになったのはただの偶然だろうか。それとも胃の頭の魔力に呼び寄せられたという事だろうか。

引用画像の出典: 諸星大二郎「栞と紙魚子」シリーズより [1995-01]生首事件, [1997-07]黄昏の胃之頭公園, [2007-05]弁財天怒る!, [2014-11]その後の生首事件(作品リスト). 諸星大二郎「暗黒神話」(集英社ジャンプスーパーエース版).

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