股川上水沿いの小公園

「赤い柵に沿って行くと林の陰に隠れる様にその小さな公園はあった。」

「ブランコもすべり台もなく、未完成のブドウ棚があるだけ。手入れも悪く、普段からあまり人が来なかった。」

「殺人者の蔵書印」に登場するこの公園は、実際に股川上水(玉川上水)沿いにほぼ作中のまま(さらには、作中作で描写される状態のまま)の姿で存在する。1995年に描かれた作中では公園の入り口は土を固めた階段で、両脇にロープを張った柵があった様だが、現在は柵はなくなり石を埋めた傾斜となっている。作中では「ブドウ棚」をやや高い位置の遠景とするため、公園入り口をモデルとした背景に低い別アングルから見た「ブドウ棚」(実際には藤棚として作られたものだろうか)を合成した背景となっている。

実際に別のアングルから撮影した「ブドウ棚」の写真を貼りつけると、作中背景を再現する事ができる。

ベンチの数も少ないながら、ほぼ同じ形のベンチが並んでいる、静かで読書に向いている様に見えるが…。

変態(…ではなく逃亡中の殺人犯だが)はいないとしても、とにかく蚊が多いのでこの季節はあまりオススメできない。

このベンチの形からすぐに分かるが、「足跡追って」で洞野たちが撮影をしている場所もこの公園である。

栞が逃げて行く階段は公園の2つ目の出入り口だったが、こちらも柵と段差が無くなり、埋められた石も目立たなくなって若干「けもの道」の様になっている。

この公園を出て股川上水(玉川上水)を下流に向かうと、栞が辿ったルートをそのまま通って長助橋(長兵衛橋)に辿り着く。

この季節は植物が繁茂しすぎて何が何だか分からないが、枝葉の向こうに作中に描かれた様な水路があるはず。

扉絵の様な風景は股川上水の随所で見られるためモデルとなった位置の特定は難しいが、これも小公園付近の風景かもしれない。

ところで「栞と紙魚子」の作中、股川上水が背景に登場する際には毎回、特徴的な「赤茶色で小さなアーチが並んだ柵」が描かれているが、現在はほとんどの箇所でこの写真の様な「丸太で作った風デザインの柵」に置き換えられてしまっている。(この記事冒頭の「赤い柵」の写真は2015年に撮影したもの)

この小公園には名前が描かれたプレートなどがない。地図にも、公園情報アプリにも、三鷹市が市内の公園を掲載しているWebページにも掲載されておらず、忘れられた様になっている場所なのか?と思っていたのだが、このプレート(2015年撮影)の「野川公園サービスセンター」という名前から公園の位置付けが分かった。この公園は三鷹市ではなく東京都が「玉川上水緑道」の一部として管理しており、「宮下橋下流左岸公園」というのが正確な名前である。なお、近くの肝田川(神田川)の首山(久我山)駅寄りにも同名の「宮下橋」が存在し、さらにその近くに「宮下橋公園」があり、公園の名前で検索してもそちらの公園しか出てこない。ここは実際に足を運ばない限りほぼ見つけられない、レアな公園と言えるだろう。

諸星大二郎「栞と紙魚子」からの引用は 作品リスト [1995-09]殺人者の蔵書印 より。

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